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この不均質な世界から

 最近はドキュメンタリーの手法を取り入れた作品をつくっています。あまりに突然だったので、これまでの作品を知っている人からはよく驚かれます。世の中のことを知らな過ぎる自分にとって、この世界を最も深く洞察できる方法であり、自身の社会的な関心を直接映しだせる今の制作方法は、とてもしっくりきています。 海外研修により、日本を離れたことで見えてきた人と文化の越境、移入、変化の形跡を、自分なりの視点で捉えられないかと思い、異なる時間と場所を紡ぎだせるモチーフを模索してきました。そして「伝統と現代」、この二つの領域に横たわる時代の「画期」にますます関心が向いています。そのひとつが家畜の労働力である「畜力」の変遷と回顧であり、現在追いかけている重要な主題となっています。「畜力」を起点に技術史はもちろん、政治史、経済史、文化史、生態史などの他領域の歴史学を自由に横断しながら、現代の暮らしを省察するための制作が今後もつづきそうです。

 

 『羊をめぐる冒険』のような今回の作品制作では、中世の面影が残る南西フランスの小さな村から、移動牧畜の文化をつづけるバスク地方の山岳地帯、そして日本の近代化に翻弄されつづけてきた成田市三里塚の地へと僕の身体を運んでくれました。それは身体的な旅だけでなく、固有の歴史や記憶に焦点を合わせるための意識の旅でもありました。世界化が進行する中、東西という境界を超えてスクリーンに映しだされる人々の姿や風景は、私たちが生きるこの不均質な世界からの抵抗となり得るのでしょうか。現代の影絵として未来に照射される日が来ることを待ちたいと思います。

​​「21st DOMANI・明日展」(国立新美術館、2019年)より

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